なぜ「次亜塩素酸水」が問題とされているのか? 三重大・福﨑教授に聞く(中篇)【withコロナ】

 新型コロナウイルスの消毒方法の有効性評価で、販売実態や空間噴霧の是非で注目を集める「次亜塩素酸水」。経済産業省と独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)が発表したファクトシートの意味は? 三重大学大学院の生物資源学研究科で洗浄・殺菌工学、界面化学、廃水処理工学を専門とし、『次亜塩素酸の科学 ―基礎と応用―』の著者でもある福﨑智司教授に話を聞いた。(全3回)
「次亜塩素酸水」は食品添加物の殺菌料として認められている(写真はイメージです)
 先日、経産省およびNITEが発表した「『次亜塩素酸水』等の販売実態について(ファクトシート)」が話題です。何が問題なのでしょうか。また「次亜塩素酸水」の有効性を維持するための注意点を教えてください。

福﨑智司(以下、福﨑)「製品安全データシートが添付されないまま配布されている、または液性に関する表示が不十分あるいは貼付されないまま出回ると、同じ次亜塩素酸水という名称だけでは市民が成分も分からず自己判断で使ってしまいます。消費者が自律した判断で使えるようなデータシートや液性の表示が必要だということを指摘したかったのだと思います。

 次亜塩素酸水というのは食品添加物の殺菌料、いわゆる食品衛生法上の名称ですが、水溶液そのものが流通することを前提に置いていません。容器に充填して配布あるいは販売した時点で食品添加物からは外れていますので、配布や販売を行う際には『食品に適用するものではない』ということを注意喚起しなければいけません。また、電気分解で生成した次亜塩素酸水にはpHと濃度に規定がありますので、その規定から外れるとこの名称も適切とは言えません。一方、二液混合で生成した次亜塩素酸水溶液は分類としては雑貨ですので、pHや濃度に規定はなく、食品以外は何に使っても構わないということになります。

 次亜塩素酸は酸化作用が強くて反応性が高い反面、濃度の減少が相対的に早く、特に紫外線によって分解が促進される特性があります。日光が当たらない暗所で低温であれば、次亜塩素酸の効果は長持ちします。これはエタノールでも同じことで、高温の場所で保管すると、濃度の減少が早まります」

 「次亜塩素酸水」と「次亜塩素酸ナトリウム」を混同している消費者も多いです。

福﨑「次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムは酸性とアルカリ性の違い、そして濃度が大きく違います。その理由は、製造方法の違いにあります。次亜塩素酸ナトリウムは、水酸化ナトリウムという強アルカリ性の溶液の中に塩素ガスを吸収させて生成します。もともとの母液の水酸化ナトリウムがアルカリ性で、できた溶液は水酸化ナトリウムの中に次亜塩素酸が含まれたものです。

 一方で次亜塩素酸水は、電気分解で製造します。薄い食塩水を隔膜がある電解槽で電気分解すると、陽極側には次亜塩素酸と塩酸が、陰極側には水酸化ナトリウムが生成されます。陽極側の酸性電解水と陰極側のアルカリ性電解水を混合して、弱酸性電解水を生成します。さらに隔膜を入れず、塩酸を出発物質にして、電気分解した生成物を微酸性電解水と言います。各電解水において、一定のpHと濃度の規定範囲にあるものを次亜塩素酸水と呼びます」
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